七番手@トキノ おまけ





一年後の春を迎えた。
元親のスマートフォンが枕元でぶんぶん震えている。
むくりと布団から起き上がりそれを眺めると、
『長曾我部、今日休み?出席カード出しとく?』
という同じ学部の友人からのメッセージが届いている。
寝ぼけ眼でそれをじいと呆けたように眺めた後、
やっと思考が追いついてはっと画面の時計に目を遣った。
「ナリィィィ!!!!」
思わず同棲している恋人の名を絶叫した。
「ん」
しかし絶叫せずとも同じ布団で眠りこけている。
さすがにその大声には眠りの深い元就も目を覚ましたようで、
うっすらと切れ長の目を開かせた。
「なんで起きてねえんだよ!!
 いっつもすっげえ早起きのクセによおおぉ」
「今日の天候は曇り故…二度寝してしもうた…何時ぞ」
「9時だよぉぉぉもう授業始まるうぅぅぅ!
 ナリだって今日一限からだろ!行くぞ!!」
「今日は曇り故なァ…」
鼻声で面倒そうに返答するもその体は布団から出る兆しを見せない。
もぞもぞと元親には背を向けて寝転がっている。
「天候関係ないから!!ほら!!顔洗ってきて!!」
「んー…まこと朝から喧しいやつよ…」
素っ裸に何も羽織らぬままのろのろと元就はやっと洗面所へ向かっていった。
どったんばったんと元親は服をクローゼットから引き抜き、
元就の分の衣服も用意してやりながら、
時計を何度も見ながらどうにか間に合わないかと試行錯誤している。
歯を磨き終えた元就は寝癖のまま寝室に戻ってきて服をのんびりと着ている。
「腹が減った、チカ」
「昼まで我慢しろ!そんな暇ねえだろ!!」
「今日ぐらいサボっても構わぬであろう…」
「駄目!おじさんおばさん、興元さんから俺ァナリを任されてんだから!
 とりあえずこれ食っとけ!」
「むぐ」
買い置きしてあったアンパンを口に押し付けられ、元就はまだ開かぬ目を擦りながら、
それを齧りだした。
「歩きながらにしろよ、ほら、靴!!」
元親はというと服を着替えてはいるもののあらゆる方向に跳ね上がった髪の毛が
どうにも寝坊したらしいとすぐ分かる寝癖だ。
元就は鞄を斜め掛けにしながらてくてくと言われるがまま歩いていく。
「曇り故なァ」
ともう一度億劫そうにマンションの廊下から見える曇り空を眺めた。
がちゃんと鍵をかけて元親は即座に慌ただしく走り出し、腕時計を見た。
「やべえあと5分!!」
「もう間に合わぬ、諦めてゆっくり歩こうぞ。遅刻でよいではないか」
「走れば間に合うって!!」
ここから大学まで徒歩3分、しかしロッカーなど寄ることを考えると
間に合うには全速力で駆け抜けないとならないだろう。
「我、寝起きでは走れぬ」
面倒そうにアンパンを頬張りながらゆったり歩く元就に
苛々しながらもやはりそれを放っておくことなど出来ず、
「あああああ!もおおおおおナリちゃん俺に捕まってろぉ!!」
元親は元就の体を小脇に抱えて走り出した。
自分が軽くて細い体でよかったと冷静に元就は思ったことだろう。
結局のところ、高校の最後の年、
元親はいわゆる火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか、
元就の傍にいたい、という目標に一直線に勉強に熱を入れ、
めきめきと成長を遂げて何とかトキノ大学に入れる推薦試験を受験できることになり、
そして合格したわけである。
ちなみに元就は特待生として学園から学費が免除される優遇ぶりである。
めでたく大学までも同じ所に進むことの出来た二人は、
この春から大学にほど近いマンションに二人暮らしを始めた。
両親からは幼馴染のこの二人なら安心だろうとお墨付きである。
クラスが離れども、学部が離れども、二人はいつも一緒だ。
正反対の二人に見せてそれを補うべく寄り添っている。
二人は歩幅も歩き方も違う。
それに向かうべき目標もきっと違うだろう、
だが二人は隣同士で歩んでいく、
きっとそれは幼い頃から同じように、これからも続いていく日常で、
それはゆるぎない事のように信じている、二人ともがだ。

「ナリちゃんアンパン喉詰めるなよ!!」

「アホチカ。ならば小脇に抱えず背負えと申すに!!」

今日も二人の痴話喧嘩が辺り一面に響き渡る。
その光景は幼い時と何ら変わりはなかった。
そして、これからもずっと。




 

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背景素材:Sweety 様















 

 

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